[特集]
持続可能な観光地経営をデザインする NOFATE:藤田雄也

「観光×エンターテイメント×商い」という視点から持続可能な観光地経営をデザインする『NOFATE株式会社』。

白川郷での冬のライトアップイベントにおいて新たな切り口から地域が抱える問題を解決に導いたことが評価され、2019年「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」の地方創生大賞を受賞しました。

今回はNOFATE代表の藤田さんがなぜ白川郷に情熱を注ぐことにし、どのようにして地域課題を解決したか、そして持続可能な観光地経営における大切な考え方について見ていきます。

世界遺産・白川郷にかける想い

起死回生のイベントが住民の負担に

戦後からの60年間、白川村では若者が離れたりダム建設のため一部の集落が無くなったりと村としての規模が縮小しつつありました。

そんな状況下においても住み続けることにした住民たちは様々な方法で村を維持しようとしてきました。

その一つに冬のライトアップイベントが挙げられます。「まず来てもらわな、ここの良さは伝わらん!」という住民の想いを結集させて出来たイベントでした。

1985年から始まったライトアップイベント。当時は交通の便も悪くSNSもない時代だったこともあり、最初の10年間は年間100人ほどの観光客が訪れる小さなイベントだったそうです。

その後白川村の荻町集落が世界遺産に指定されたことでさらなる注目を浴びるようになり、近年のインバウンド需要の爆発的な増加によりオーバーツーリズム問題が顕在化することとなりました。

村を維持するために始まったはずのイベントが、逆に住民の負担となってしまったのです。

(込み合っている白川郷の様子)

ボランティアでの現場体験から使命感へ

その状況を目の当たりにし、初心に帰る必要性を感じ行動に移したのがNOFATE代表の藤田さんです。

前身企業の株式会社旅ジョブでは、香港や台湾からの観光客の旅行手配をしていました。

2016年から村のライトアップイベントを組み込んだツアーの手配にも着手しますが、需要が高い一方で受け入れ態勢が整っておらず観光客の満足度が低かったそうです。ただ藤田さんはそこに目をつけました。

そこで現場を知るため2017年のライトアップイベントでボランティアスタッフとして携わったところ、住民に寄り添ったイベントにするためにもてこ入れが必要であると気づいたのです。

NOFATEでは地元住民の不安を取り除き、お客様がまた戻ってきたくなるきっかけを作るようなイベントにすることを目標に掲げました。

では次にどのような施策でライトアップイベントのオーバーツーリズム問題を解決させたのか見ていきたいと思います。

NOFATEのオーバーツーリズム対策

完全予約制度の導入と入場有償化

2017年の時点で変化の必要性を感じたものの、村の合意形成が必要であったことから2018年は従来通りの開催となりました。

しかしそこでの混雑ぶりがメディアに取り上げられたことで、抜本的な改革が必要であると村の誰もが考え、翌年2019年の開催においては運営を一任されることになりました。

そこでNOFATEでは思い切ってイベントの完全予約制度の導入と入場有償化を実施したのです。これら制度のポイントを次の4点にまとめてご説明します。

  1. 完全予約制の周知
  2. 住民・観光客の負担の軽減と安全の確保
  3. 観光客のフィルタリング
  4. 有償化によるサービスクオリティの担保

完全予約制の周知

SNS、インフルエンサー、各メディア、旅行代理店など半年間情報発信を続けました。

その結果改革を行った2019年は99.2%のお客様が事前予約をした上で入場したため、周知に成功したと言えます。

住民・観光客の負担の軽減と安全の確保

村民ボランティアが稼働しなくても滞りなく現場を回せるようになり、観光客の安全も確保することができました。

事前予約制にしたことで予約者情報の国籍・懸念点などのデータ分析が可能となり、人員配置を効率よくできたことが理由に挙げられます。

観光客のフィルタリング

どのようなお客様に来て楽しんで頂くかを考え、観光客のフィルタリングも意識して行っていました。

多くの地域で見落としがちな「地域が観光客を選ぶ」という観光地経営で最も重要な視点の一つを取り入れたわけです。

これはレスポンシブル・ツーリズムの実践においても大切な考え方となるため、今後の観光地域づくりにおいても大変参考になることでしょう。

有償化によるサービスクオリティの担保

イベント会場の入場券と展望台の入場券を有償化したことは地域財源の負担を減らすことにもつながりました。

入場者数が2/3となっても、客単価を上げることによって売上額は2倍となりました。

お金を払ってでも行きたくなる場所・地域・イベントにしていくという発想や心意気が大切なのですね。

(2019年冬のライトアップイベントの様子)

オーバーツーリズム解消から地域商社設立へ

ここまで白川村の冬のライトアップイベントについて見てきましたが、観光地経営では受け入れ側が主体性を持ち実現可能かつ持続可能なサービスに取り組むことが重要です。

NOFATEではお客様の満足度を高めるという目的を明確にしアプローチ方法や現場オペレーションを何度もデザインしなおし続けるそうです。

サステナブルツーリズムで最も大切なことは、観光客を迎え入れる側の主体性だと語る藤田さん。

今回ライトアップイベントにおけるオーバーツーリズム問題の解決に成功しましたが、旅行者側・地域側双方の満足度を上げるためにはさらなる改善が必要と考え地域商社『合掌ホールディングス株式会社(以下合掌HD)』を立ち上げることになりました。

合掌HDは白川村の持続可能な観光地経営を担う実行部隊で、『伊藤忠商事出身の経営者(藤田さん)』『白川郷にある民宿の女将(鈴口さん)』『オランダ在住5年のコミュニティデザイナー(河野さん)』『外国籍のツアーガイド(ジョージアさん)』の4人のメンバーで設立されました。

このうち藤田さんとジョージアさんは飛騨地域での在住経験が無いため、外部的視点で地域を冷静かつ情熱的に捉えられます。

(合掌ホールディングスの初期メンバー)

このように多種多様な価値観で物事を多角的・立体的な視点で捉えることで行動に厚みが出るのです。

設立後から徐々に共感を呼ぶようになり、現在は村内外のメンバーも加わりさらに多様性を持った組織になっているそうです。

NOFATEの考える持続可能な観光地経営とは

それでは最後にサステナブルツーリズムにおいてNOFATEの大切にしている姿勢・考え方について迫っていきたいと思います。

代表の藤田さんが言うには以下の三原則が欠かせないとのこと。

  1. ブームに左右されないサービス品質・信頼を提供できること
  2. 地域の生活風土や文化を保ちつつ、継続できる取り組みであること
  3. 地域住民が主体的に考え、行動し、時代の変化に合わせて柔軟に行動すること

一つ一つ詳細に見ていきましょう。

ブームに左右されないサービス品質・信頼を提供できること

NOFATEでは特定の課題解決や社内人材育成をするために、クライアントと共に実行支援をするハンズオン支援を実施しているそうです。

具体的には、旅行者へのヒアリングやアンケートなど実態調査の結果を共有することや、分析数字に関して地域住民とコミュニケーションを取りながら対話を重ねていくことです。

そうしたことによって自分たちを取り巻く状況を俯瞰する視点「大局観」を持つ大切さを学ぶことができるのです。

それは結果としてサービスの質を上げることに繋がり、ひいてはリピーター獲得にもつながるのです。

地域の生活風土や文化を保ちつつ、継続できる取り組みであること

世界文化遺産は誇るべきブランドですが、それよりフォーカスすべきなのは白川郷に住む人々の生活や風土、文化とのこと。

この場所ならでは、田舎ならではの素朴さや温かさ、ちょっとしたおもてなしが観光競争力の原点だということですね。

その本質を見失わないために、ライトアップイベントのオーバーツーリズム問題において完全予約制と入場有償化を実施することで安全面はもちろんのこと、丁寧な対応やおもてなしにまで意識が向くよう心掛けたわけです。

地域住民が主体的に考え、行動し、時代の変化に合わせて柔軟に行動すること

観光地経営の当事者は他でもない地域住民でありますが、それを牽引していく人は地域住民の共感を得て主体的に動く人でなければならないそうです。

先述の合掌HDでも地域コミュニティを機能させて、主体性のある取り組みを継続することで新たな価値を生み出しているんだとか。

昨今のコロナ禍においても着々と様々なことを仕掛けているようですよ。

(NOFATE株式会社代表 藤田雄也さん)

最後に藤田さんは次のように語ってくれました。

観光地の最も重要な資産は『固有の文化・風土』、そしてそれらを形成する『住民の生活』であると考えています。

魅力や強みを最大限にひきだして、訪れた人がまた来たいと思えるような場所を目指すことで観光競争力は自ずと高まります。

昨今注目を集めているサステナブルツーリズムでは「地域の文化や自然環境に配慮し、本物を体験し味わうことなどを通して、観光地の住民と観光客とが相互に潤うことが重要」という概念が生まれています。

この取り組みの目新しい点は、観光地や事業者だけにとどまらず「全ての観光客の意識」を求めていることです。

NOFATEが実践している『持続可能な観光地経営のデザイン』は事業者としての立場から、観光客と地域住民の相互理解を求めています。

それは第三者からの押し付けではなく、『結』のように、相互扶助の精神によって実現されてゆくものだと信じています。

NOFATE株式会社代表 藤田雄也さん

本当に素晴らしいですね。コロナでそれどころではありませんが、アフターコロナの観光地づくりにおいて重要な考え方が凝縮されていると思います。

おわりに

今回はNOFATE株式会社の白川村でのオーバーツーリズム問題の解消から持続可能な観光地経営において必要な観点について見ていきました。

すごく奇抜なことをして問題解決を成し遂げたわけではなく、基本に忠実に地域住民・旅行者の視点に立って行動したことが最大の成功要因だったのでしょう。

地方創生大賞を受賞したことはもちろん、観光・地域づくりの分野において今後ますますの活躍が期待される企業ですね。合掌HDの取り組みにも注目していきたいところです。

本記事にはサステナブルツーリズムやレスポンシブルツーリズムを実践していく上で重要なエッセンスがたくさん詰まっています。

日本全国で地域課題の解決に取り組まれる方の参考になれば嬉しく思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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