アワード受賞者が語るコロナで気づいたインバウンドビジネスの本質

プロフィール
世古 乃佑

岐阜県下呂市馬瀬地域に移住後、インバウンド体験ツアー事業を起業。事業開始わずか2年目で年間ツアー本数200本をこなすまでに成長し、2019年にはトリップアドバイザートラベラーズチョイスアワードを受賞。国内外の旅行会社や海外メディアと連携しながら地域の魅力を世界へ発信し続けている。コロナウイルスの影響でインバウンドは下火になるも、地元飲食店とコラボした旅行商品を造成し、国内旅行者にも人気が出始めている。さらにツアー事業のかたわらウェブ事業も手掛けており、ホームページ制作など地元事業者を中心に貢献している。

合掌ヴィレッジでは何度か記事を執筆させて頂きましたが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大によって浮き彫りになったインバウンドビジネスの本質について自身の経験を元にお話していきたいと思います。

これまでインバウンドビジネスに携わってきた方やこれから取り組まれる方に参考にして頂けたら嬉しいです。

ビジネスへの影響も実数値で表しているので、観光業界に身を置いていない方でも楽しんで頂ける内容になっていると思います。

それではまずコロナ前の僕のインバウンドツアー事業についてお話していきましょう。

目次

これまでの経緯

僕は2018年より飛騨高山周辺を舞台にした外国人向け体験ツアーUMESEKO TOURをスタートさせました。

UMESEKO TOUR | Hida Takayama Rural & Local Activity

ゼロからのスタートでしたので、事業開始当初は集客に苦戦しましたが、同年夏頃から予約が入り始め、秋にはひと月20〜30本のツアーを行うまでに成長していました。

年が変わった2019年もその勢いはとどまることを知らず、4〜5月は2018年の秋以上の盛況ぶりを見せていました。

その結果、年間ツアー本数約200本、売上高約400万円と創業2年目とは思えないほどの規模にまで成長し、同年6月には世界最高峰の賞と目されるTripAdvisor Travelers’ Choice Awardsを受賞し、日本の体験トップ10入りを果たしました。

さらに同口コミサイトにて中部・高山エリアのOutdoor Activities部門でともに1位を獲得しているほか、海外メディアへの掲載も数件ありました。

自分で言うのもなんですが、地方で行われるツアーとしては異例の成長ぶりであり、地方部へのインバウンド需要の喚起において大変参考にできる事例なのではないかと思っております。

このように開始からわずか2年で急速に成長し、順調な事業運営ができていましたが、ご多分に漏れず当ツアーもコロナの荒波にさらされることになったのです。

コロナで前年比96%

ここまで2019年までの僕のインバウンド体験事業についてざっとご説明していきました。それではいよいよこの事業がコロナ禍においてどう変わったかについてです。

オリンピックイヤーでもある2020年に向けて、日本中でホテルの開業ラッシュとなっていたのをご存知の方もいらっしゃるでしょう。

僕自身も過去2年の大躍進から2020年がどんな素晴らしい年になるだろうかと楽しみにしていた矢先、新型コロナウイルスの確認を知らせるニュースが世界を震撼させたわけです。

これまでの人生の中でパンデミックというものはもちろん経験したことがなかったので、当初は「まあ大丈夫だろう」と高を括っていたことを今でもよく覚えています。

しかし2019年と比較して予約の入り具合は明らかに鈍化していましたし、夏以降の予約も次々にキャンセルが出ていました。

2020年終わってみればあっという間でしたが、インバウンドのツアー本数としては7本、外国人客数も前年比96%減という衝撃の結果でした。

観光業界の場合客数が売上に比例するので、単純計算にはなりますが売上も96%減と考えてよいでしょう。改めてこの数値を見るとゾッとしますね。いや自分ごとなんですけどね笑

日本でも様々な業界で前年比売上○割減といった報告がなされていますが、観光業界の特にインバウンドはコロナによる影響が最も大きい業界なのではないでしょうか。

もちろんコロナに限らず各国情勢など外的要因に大きな影響を受けるビジネスモデルではありますが、何にせよインバウンドはハイリスクなビジネスだと言えるのではないでしょうか。

これについては僕自身も予想はしていましたが、今回のコロナ騒動により実感に変わり、日本社会のにおいても大きく露見したことでしょう。

外国人旅行者から国内旅行者へ

では続いてコロナ禍において行ってきたことについてお話します。

シンプルに言えば外国人旅行者から国内旅行者へのシフトで、日本語のツアーサイトを開設したり国内旅行者向けの販路拡大などを行ったりしていました。

インバウンド向けに造成した従来のツアーも売れなくはないだろうとは思っていましたが、嗜好の違いから新たな商品造成も必要だろうと考えました。

実際の販売は秋以降となりましたが、Go To トラベル事業や自治体のキャンペーンのおかげもあって予想より多くのお客様にご参加頂けました。

半数ほどはモニターツアーだったため収益としては全くといった状況でしたが、2020年前期は全く受け入れをしていなかったため、ゲストを受け入れられる喜びを改めて感じましたね。

国内旅行者向けツアーでの一幕

また国内旅行者向けの商品はどれも満足度が高く、当面の間海外からのお客様を受け入れられないことも踏まえると、今後に期待を持てる内容でした。

このようにコロナ禍であってもなんとか事業を継続させようとあの手この手を使って踏ん張っていたのが2020年だったような気がします。

ただ喜びや今後への期待とは裏腹に、なんとも言えない寂寥感も感じていたのです。

外国人旅行者と国内旅行者との決定的な違い

その寂寥感というのは一言で表すとツアーゲストの感動の薄さからくるものです。

これはもちろん国内旅行者が劣っているというわけではもちろんなく、至極当然なことでもあります。

ツアーの中で見る景色やガイドから伝え聞く話などどれも外国の方からすると本国の文化と全く違うわけで、その分それを見た時聞いた時の感動が国内旅行者のそれよりも数倍大きいわけです。

2019年9月 カリフォルニアからのゲスト

さらにヨーロッパなど地域によっては飛行機を乗り継いで何時間も何十万円もかけて日本を訪れる、しかも僕のツアーの場合なんにもない田舎へ訪れるわけですから、現地の人との交流もかけがえのないものとなるのです。

方や国内旅行者の場合、東京から一番遠い北海道や沖縄でも2〜3時間で行けますし日本語も通じますしチェーン店など見慣れたお店も多くあるはずです。

現地の文化も新鮮なものはあるかもしれませんが、基盤は同じ日本ということでそこまで違いはないでしょうし、外国の方が感じるほどの感動はないのだと思います。

これは2020年日本の方にツアーを体験して頂いて初めて分かったことです。

もちろん提供側としてはお客様が常に満足のいく時間を過ごせるよう全力のサービスをするよう心がけています。

ただ同じものを見せた時、同じ話をした時の反応の違いは感じずにいられませんでした。

残念だとまでは思いませんでしたが、外国の方に地域を紹介している時の方がこちらもより生き生きとしていた気がします。

コロナが国内旅行者への販売を始めるきっかけになった一方で、改めて外国人旅行者を受け入れることの良さを感じたとともに、一日でも早く戻ってきてほしいと思うようになりました。

そしてこれこそが自分がインバウンドビジネスに挑戦した他でもない原点でもあったのです。その原点については最後にお話します。

ハイリターンなインバウンドビジネス

前述の通りインバウンドビジネスは外的要因による影響の大きいハイリスクなビジネスです。

それは今回のコロナ騒ぎによって自身の事業だけでなく日本全体で露見したことと言えるでしょう。

ではタイトルにもあるインバウンドビジネスのハイリターンというのは一体何なのでしょうか。

これは人によってもちろん違うことなのですが、僕を含め国内でインバウンドビジネスに取り組まれる多くの方が感じることだと思います。

それは国内旅行者との決定的な違いで触れた“感動の振れ幅”でありやりがいです。

ビジネスとして継続していくにはもちろん利益を上げていくことは絶対だと思います。

ただインバウンドビジネスにはお金で買えない価値が間違いなくあると強く感じています。

それはゲストにとっては異文化に触れる機会を得られることはもちろんのこと、かけがえのない時間を過ごせることに他ならないでしょう。

一方サービス提供者であるホストとしては、その文化体験、宿泊体験をするために多くのお金と時間を費やし異国からはるばるやってきたゲストからの喜びや感動の声を頂戴できることにあります。

これはビジネス的には一銭にもならないかもしれませんが、まさにお金で買えない価値でありインバウンドビジネスの本質です。

そういう意味ではインバウンドビジネスというのは社会貢献的な意味合いも強いのかもしれません。この社会貢献というのは外国人旅行者に対して、そして地域に対しての貢献です。

ビジネスの最前線を走る方からすれば甘えと取れる発言なのは重々承知しておりますが、この感動ややりがいというものは提供者からすれば大きなリターンであると思っています。

お客様に質の高い宿泊・旅行体験を提供することにより、逆にこの上ない喜び・感動の声を頂けること。これこそがインバウンドビジネスの大きなリターンなのです。

インバウンドビジネスの本質

ここまでインバウンドビジネスがハイリスク・ハイリターンなビジネスであるとお話してきました。

最後にインバウンドビジネスを始めた僕の原点とこのビジネスの本質についてお話しましょう。

これまでに所々で述べていることではありますが、やはりゲストに感動を与えられ同時に自分も感動できることが、僕がインバウンドビジネスを始めようと思った原点です。

元々学生時代から海外や外国人との交流に深い興味があり、様々な国際問題について考えるほか、海外へ出向くことも何度かありました。

そのため将来の職業についてもそういったことに間近で携われるようなものがいいと漠然とではありますが考えていました。

結果的には地方でインバウンドツアーガイドをするに至ったのですが、やはり外国の方とのコミュニケーションそのものや彼らにとって文化的に価値のあるものを作れることが楽しくもあり大好きなことです。

そしてこの僕の原点は全てのインバウンドビジネスにおいて共通して言えることであり、これこそがインバウンドビジネスの本質だと強く思っています。

なぜなら先で触れたようにインバウンドビジネスがハイリスクなビジネスだからです。

ハイリスクだからこそ、国内旅行者にも目を向ける、観光以外の事業を展開するなどのリスクマネジメントはもちろん必要なのですが、根本にこのマインドが無いと事業の継続は難しいでしょう。

特に新型コロナウイルス感染症といった未曾有の危機に直面した時にその命運が分かれるのです。

ビジネスとして割り切っている方の多くは、向こう数年間インバウンドの回復は見込めないため、すぐにでも閉店・廃業という選択をするでしょう。

一方でこのインバウンドビジネスの本質を理解している方は「必ずや戻ってくる日が来る」と信じてなんとか工面しようとするはずです。少なくとも僕は後者の人間です。

インバウンドビジネスがハイリスク・ハイリターンなビジネスであり、特にリターン部分を真に理解している方にとっては、身を切る思いをしてでも事業を継続させることでしょう。

2020年は世界中で特にインバウンド業界はひどい有様でしたが、いつかまた輝く未来がやってくると信じています。

それまで自分含めインバウンドビジネスに取り組んできた、そしてこれから取り組まれる方に踏ん張ってほしいと思います。

おわりに

今回はコロナ禍前後の僕自身のインバウンドツアー事業を振り返りながら改めて考えたインバウンドビジネスの本質に迫っていきました。

どの業界でも苦境に立たされている状況ですが、日本におけるインバウンドはほぼ蒸発化してしまいました。

と同時にインバウンドがいかに危険なビジネスであるか、多くの人が気づいたことと思います。

ただ一方でインバウンドビジネスの面白さでもある大きなリターンについても改めて実感することができたのではないでしょうか。

感染防止策やワクチン開発が各国で進み、回復時期についても方々で予測されておりますが、やはり数年は必要でしょう。

ただ一つ言えるのは外国人旅行者は必ず日本へ戻ってくるということです。

その確信が根底にあるからこそ少なくとも僕はすぐに辞めるつもりはありませんし、彼らの期待に応える義務だとも思っています。

時間はかかっても必ず戻ってくるその時を信じて、国内旅行者中心にはなりますが2021年も引き続きツアー事業を行っていきたいと思います。

長くなってしまいましたが、最後までお読み頂きありがとうございます。

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