【特集】コロナは、チャンスだ!

新型コロナウイルスによって、観光業界は大きな影響を受けました。

そんな中、このタイミングを今後の観光の在り方を考え直す良い機会であると捉えているNOFATE株式会社の代表藤田さんにお話を伺いました。

語り手:藤田雄也
総合商社・伊藤忠商事出身でNOFATE(株)のCEO(注:ちょっといーお父さんの略)。”持続可能な観光地経営をデザインする”をテーマに商社での経験を踏まえ、観光分野にとどまらず”サービスと利益を両立させる”地域ブランディングを手掛けている。NOFATEは2019年ふるさと名品オブ・ザ・イヤーの地方創生大賞を受賞したことで、ターミネーター2以来”no fate”という言葉が全国的に広がりつつある。
聞き手:あかり
  都会生まれ都会育ちの大学2年生。まだ地域や地方創生という言葉に対し漠然としたイメージがあるのみなので、インタビューを通してこの言葉の解像度を上げ、自分が将来やりたいことを考えるきっかけにしたいと思っています。

新型コロナウィルスの影響により人々の生活や環境が大きく変化しています。

そして本当は何がしたいのか?と問える重要な時間だと改めて感じました。

今回のコロナによって大人も子どもも心が不安定な状態になったとは言われていますが、ではコロナ前って心は安定していたのか?本当に居心地の良い状態だったのか?と問うてみてください。

多くの問題や不安は本当はコロナ前から潜在していて、それがコロナ問題としてすり替えられているだけではないかと思っています。

ワクワクしながら仕事に取り組んでいたり、日々の生活を楽しんだり、学校に行ったりしていた人がどれだけいたのか、ということを常に疑問視していました。


(季節ごとに異なる表情を見せる岐阜県・白川郷:ここに住む人々が綿々と語り継がれてきた伝統文化を大切にしている)

風情ある世界遺産は、ここ数年失われていた

弊社は世界遺産、岐阜県白川郷でこの5年ほどビジネスをしてきたため、白川郷で起きていたことを中心にコロナ以前・以後の地方創生の在り方を述べていきたいと思います。

ご存知の方も多いと思いますが、白川郷は岐阜県屈指の観光地で合掌造り集落で知られています。1995年に富山県五箇山ととも合掌集落が世界遺産に登録され、日本のみならず海外からも注目を浴びるようになりました。

人口わずか1,600人弱、世界遺産に登録されている荻町というエリアに限っては600人弱の小さな村です。この小さな村に年間216万人(2019年・白川村役場データ)もの観光客がきていました。そしてなんと約半数は海外からのインバウンド客でした。

季節による偏りはありますが、1日平均6,000人弱、そのほとんどが合掌集落のある荻町に集中しており、平日も週末も関係なく、毎日村民の10倍もの観光客で溢れているような状態でした。


(2019年2月下旬の白川郷の様子:ありとあらゆるところに観光客がぎっしり)

インバウンド客も多いことから観光地としての成功事例として取り上げられることの多い白川郷ですが、実は数年前から観光客の過剰な混雑による弊害が始まっていました。

恒常的なオーバーツーリズムによって住民の生活や環境に大きな変化が起こっていたのです。その典型的な事例が冬の1,2月の週末に行われるライトアップイベントでした。

元々は2-3m積雪する豪雪地帯であること、またアクセスもよくない冬の白川郷には30数年前は観光客はほとんどいませんした。そこで当時の村民がなんとか観光客にお越しいただこうと村民全体で知恵を絞って始め、現在まで続いているイベントがライトアップです。


(幻想的な景色を求めて日本のみならずアジア各地からも大人気のライトアップイベント)

今でこそわずか2時間の間に8,000人から10,000人もの観光客が一気に詰めかけるアジア屈指の人気イベントとなっていますが、イベントを始めてから10年ほどは2桁よくても100人程度しか集まらない無名イベントでした。

それが写真家やメディアの波及効果、世界遺産への登録、高速道路の開通などもあり、一気に観光客が増えていきました。

ここ数年は村民だけでは手が付けられないイベントとなってしまい、イベントの半年前から対応窓口であった観光協会はパンク寸前の状態が続いていた上、イベント当日は大渋滞、大混雑、違法駐車、村外に勤務している住民が自宅に戻ってこれない、観光客同士の写真場所の取り合い、住民と観光客の喧嘩など多くの問題が積算し、村民の手に負えないイベントとなってしまいました。


(展望台へのシャトルバスを求めて長蛇の列をなす観光客)

そこでイベントの個人旅行客の運営・管理を一任された弊社では、完全予約制の導入という思い切った戦略を実行しました。量的思考からの脱却、つまり質的思考へシフトすることでまずは住民負担を軽減させることで、持続可能なイベントにすること。そして来ていただいたお客様のフラストレーションを軽減し、楽しんで帰路についてもらうということ。同時に地域イベントにありがちな無料イベントで税金で費用補填することをやめ、付加価値をつけることで有料イベントとしました。

2019年、2020年と実行して完全予約制が定着し、村民のみなさまと対話していると、「以前のような状態には絶対戻りたくない」という方がほとんどでした。

イベントでのオーバーツーリズムが解消され、奇しくもコロナの影響により日常でのオーバーツーリズムも解消され、これまではなかなか確保できなかった貴重な時間を手に入れることができました。


(ライトアップの完全予約制は観光品質を高めるとして、台湾のメディアにも多く取り上げられる)

これからの観光を考える上で今は貴重な時間

今の状況は、観光客は平日はほとんどはなし、週末に少々いるという20数年前の原風景の白川郷が戻ってきました。どことなくホッとしているという住民の方も多いと聞いています。

もちろん観光が主力産業で生活もあるので大打撃ではありますが、コロナもなく突き進んでいる方が危険だと感じていました。

『本当に何がしたいのか?』という本質がはっきりと問われてくる時だと思います。

コロナ以前とかポストコロナどうこうよりも、都市・地方に関わらず大切なことは、自分自身の頭で考えて、柔軟に行動できるかどうか、だと感じています。

そういう意味では、コロナのお陰で時間という大きな資産が手に入ったことはチャンスだと感じています。

そして面白い地方がどんどん出てくると感じています。

白川郷も写真映えの合掌造りだけでなく、本質である相互扶助の精神=結の文化を前面に出したサービスを展開していきたいと考えています。

平成の大合併が全国的に行われていた際に、主要産業のない白川郷は敢えて観光で生きていく選択をし、一村独立の道を決めました。

令和のコロナウィルスによって、本当の白川郷ブランドが生まれるかどうか、今大切な時期にきております。


(合掌造り民宿でのチェックアウトの時の一コマ)

これから数十年先の持続可能な地域発展を考える上で、今は非常に貴重な時間となっています。今回のコロナウィルスを機会と捉え、本質を見極め発信できる白川郷を目指していきたいと思います。